2021

 ぼくの憧れるひとの多くが、ある種の精神的な負荷を受けていた過去があることがわかった。それは病名のある疾患だったり、そうでなく自らの命を断とうとした経験だったりと様々な形を伴っているが、そこに安心感と焦燥感と恥がある。

 ぼく自身がそういう指向性があるから、同時にそういうひとを好きになることはあるかもしれない。でも、多くは世間的にも「才能がある」とか評価されて、大衆的人気も同時に獲得しているひとが多い。

 世界が、精神疾患的なものに包まれていっている気がする。

 メンヘラなんて言葉が一般化して、病むなんてことが日常化し、うつ病のフリして煙草を吸って文芸に耽溺して、みたいなことがミームやファッションになっていく世界で、ぼくは腕も切れないし、錠剤も飲めないし、煙も吸えない。度胸のなさゆえに。才能あるひとたちが自分と同じ指向性を持つかもしれない期待と安心と炭みたいに軽い自尊心が、自分がそうなれない恥と憧れと焦りを支えている。ぼくも病名をつけてもらいたいという浅薄な感情が脳のそこを這いずっている。「本当に苦しんでいるひとを前にそういうことを言えるのか」と、ぼくの倫理が光りながら諭す。眩しいよ。