習作「米津玄師出演のPlayStationCMの計量映画学的分析」
こんにちは。「遊び」で米津玄師のプレステCMを分析してみました。分析が甘いのですがせっかく書いたので載っけます。(にしても「POP SONG」良すぎんか???????? 早くCD出してくれ!!!!!!!!!!)
本稿は北村匡平『24フレームの映画学;映像表現を解体する』(晃洋書房、2021)で示された計量映画学(シネメトリックス)的手法に基づき、2022年1月23日に公開されたSONYのプロモーション映像を分析し、「何が映されているのか」を明らかにすることを目的として書かれる。
対象とする映像素材はSONY公式のYouTubeチャンネルの当該動画*1からの引用である。
映像素材の情報は以下の通りである。
尺:30.0s
ショット数:30
平均ショット長:1s
分割したショットを簡単に分類したものが以下である*2。
番号 | ショット | 登場人物 | フレーミング | アングル | 持続時間(s) |
---|---|---|---|---|---|
1 | ロゴ | N/A | N/A | N/A | 1 |
2 | ヘレニズム的兵団 | 兵士たち | ELS | ハイ | 1 |
3 | 兵団の局所 | 兵士たち | LS | 垂直 | 0.5 |
4 | 同上 | 兵士、兵士たち | MCU | 水平 | 0.8 |
5 | 兵団→仮想空間 | 兵士→米津玄師 | LS | 水平 | 2.1 |
6 | 仮想空間→兵団 | 米津玄師 | CU | 水平 | 1.3 |
7 | 兵団 | 兵士たち | CU | 水平 | 0.8 |
8 | 同上 | 米津玄師、兵士たち | CU | 水平 | 1.3 |
9 | 同上 | 同上 | CU | 水平 | 1 |
10 | 同上 | 米津玄師、兵長、兵士たち | ELS | ややハイ | 1.2 |
11 | 同上 | 米津玄師、兵士たち | MCU | 水平 | 1.5 |
12 | 同上 | 米津玄師、兵長、兵士たち | CU | 水平 | 0.5 |
13 | 同上 | 同上 | MS | 水平 | 0.5 |
14 | 同上 | 同上 | MCU | 水平 | 0.5 |
15 | 同上 | 同上 | MLS | 水平 | 0.8 |
16 | 同上 | 米津玄師、兵士たち | ELS | 水平 | 0.9 |
17 | 同上 | 同上 | ELS | ハイ | 0.6 |
18 | 同上 | 同上 | CU | 垂直 | 0.4 |
19 | 同上 | 同上 | MCU | 水平 | 0.3 |
20 | 同上 | 同上 | ELS | 水平 | 0.7 |
21 | 同上 | 同上 | CU | ややハイ | 0.5 |
22 | 同上 | 同上 | LS | 水平 | 1 |
23 | 同上 | 同上 | ELS | ハイ | 1.5 |
24 | 同上 | 米津玄師 | MS | ややロー | 1 |
25 | 同上 | 米津玄師、兵長、兵士たち | ELS | ややハイ | 1 |
26 | コピー | N/A | N/A | N/A | 1.2 |
27 | 兵団 | 兵士たち | CU | 水平 | 0.8 |
28 | 外の世界、コピー | 兵士たち | ELS | ハイ | 2.7 |
29 | ロゴ | N/A | N/A | N/A | 1.3 |
30 | ロゴ | N/A | N/A | N/A | 1.5 |
以上から、ほとんどが1秒以内のショットで構成される、非常にテンポの速いプロモーション・ビデオであることが明らかである。また、2.7秒と本作の中で特徴的に長いショットについては映像終盤のキャッチ・コピーの提示ショットである。プロモーションの使用上、最も重要である「PLAY HAS NO LIMITS」というコピーが最重要なショットとして扱われていることがわかる。
では、次にそれぞれのショットごとに「何が映っているのか」について映像を構成順に検討していく。
以上から、本作は「ヘレニズム様式の城内と兵団のただなかに、異質な格好をした米津玄師が登場し、兵士を次々と意味転倒させ、多様な外部への扉を開いていく」という構造を持っていることがわかる。
外部世界への扉を開く米津玄師は、さながらゲーム(=遊び=PlayStation5)を体現したかのような存在として振る舞う。対して兵士は武具を通して命のやり取りをする存在であり、ゲームとは対照的である。命をかけていた剣や盾の意味が次々に転倒されていき、兵士たちはやがて世界が「閉じていた」ことを知る。世界はもっと「遊び」に満ちていることが明示され、視聴者に「ゲームを通して多様な世界を遊ぼう」というようなメッセージが届けられるであろう。
ここで米津玄師が演じるのはトリック・スターとして、意味を撹乱する役割である。米津玄師の格好は道化のようであり、第16ショットで登場する自転車のように周囲の兵士たちとは時代が異なる「異様な」質感を伴った存在として感じられる。よって兵士たちは困惑し、視聴者もまた「異物」としての米津玄師を認識する。ここの米津玄師の異物感は現実の、我々が認知する米津玄師に対してもつ異物感と対応関係にあると言って良い。
米津玄師はそもそも「ハチ」名義でVOCALOIDを使用した楽曲群をニコニコ動画で発表し続けてきた、いわゆる「ネット発」のミュージシャンである。いわば亜流からメイン・ストリームへ躍り出てきた存在であり、現役(引退を表明していない)ボカロP*4としては初めてNHK紅白歌合戦に出場したことを思い出しても良い。米津玄師はそもそもがトリック・スター的な存在として我々に認識されており、その性質が作中ないの米津玄師に仮託されているのである。
米津玄師のトリック・スター性は第21ショットで米津玄師がヒールのついた、やや女性的なニュアンスの靴を履いていることからもわかる。男性である米津玄師がジェンダー固定性を転倒させるような振る舞いをすることで、やはりここでも米津が意味を撹乱する存在として描かれている。また、ミュージシャンとしての米津玄師のファンには、ここで彼の2018年の楽曲「Lemon」のミュージック・ビデオが思い起こされる。そこでも彼はハイヒールを着用しているのである。加えて言えば、この靴が明示されているショットで米津玄師は非人間的な動き(兵士よりもはるかに早く等速直線運動をする)をしている。それもまた、この場面における異質さを物語る。また、「靴」は従来から重要なモチーフとして表象される。『オズの魔法使い』においては魔法の靴のかかと(ヒール)を打ち鳴らすことによって、ドロシーはカンザスへ帰ることができる物体であり、それもまた「外部と接続する」ものであった。『シンデレラ』においては魔女から渡され、落としたガラスの靴がシンデレラをハッピー・エンドへと導く。本作では、異様な速度の米津玄師と地面の接点、またジェンダー転倒性の表象として「靴」が提示されているのである。
また、何度も登場するモチーフがコントローラー(DualSense)である。第3ショットで身体を揺らし、のちに米津玄師へと「変身」する兵士の傍らには第18ショットで再掲される石的なコントローラーを持った兵士がいる。コントローラーというコンシューマー・ゲームのある種の象徴*5によって世界に「異質=米津玄師」が持ち込まれる。仮にここでコントローラーを持つ兵士が「操作者=プレイヤー」だとしても良いだろう。その操作によってキャラが「変身」し、外部接続性を保つ「プレイアブル・キャラクター」であるところの米津玄師が登場する。やがてそのキャラクターは第19ショットに至るとコントローラーに導かれるようにして扉を開く。古代を思わせる石=コントローラーは扉が開けられるとやがてDualSenseに変貌し、現代性を伴って兵士の手に握られる。世界が開いていることはPlayStationが存在することと同義なのかもしれない。
ここまで見たきたように、本作はPlayStationブランドの広告として、「遊び」の重要性と、「遊び」に満ちた外部への接続可能性をPlayStationが担うということを、米津玄師の異質性、トリック・スター性に仮託して表現されたものであると分かった。そしてその表現において重要視されるのが「従来の、固定された意味の転倒」であろう。剣による暴力が、米津玄師のトリック・スター的な身体を通して「(米津玄師、また彼を通した「プレイヤー」によって)遊」ばれ、世界は驚きに満ちたものに開かれていく。その為の米津玄師なのである。
本分析を通して発見できたことは少なくないが、筆者の力量不足により多くの点を見逃しているであろう。本稿は習作として書かれたものであり、本稿の試みがあまり上手くいったものとは言えない。筆者としては、より精緻で意義深い分析や検討を待ちたい。
ということで、書きました。ご意見などあればTwitterででもコメントででも良いので書いてくださるとありがたいです。本文中にも書きましたが、あくまで北村匡平の本に感化され(『24フレームの映画学』は非常に素晴らしい本なのでみんな読んでください)、見ようみまねでやってみようというものです。あまりショットごとに分けた成果が出ている感じがないですが、まあこういうのを重ねてなんとか能力向上に努めたいなとうっすら思っています。誰も読まないかもしれないけど、インターネットの海に放り投げることでなんとかしたいという思いが強い。
それでは、読んでいただいた方がいたら大変嬉しいです。ありがとうございました。
*1:参考URL;https://www.youtube.com/watch?v=xhOobsomWnI(最終閲覧日:2022年1月24日)
*2:表中の略語は以下の通り。超ロングショット=ELS/ロングショット=LS/ミディアム・ロング・ショット=MLS/ミディアム・ショット=MS/ミディアム・クロース・アップ=MCU/クロース・アップ=CU
*3:ここでは閉じた系、閉塞感として諫山創『進撃の巨人』や冨樫義博『HUNTER × HUNTER』を思わせる
*4:VOCALOIDを用いて音楽を制作・発表するひとのこと。
*5:PCゲームではキーボードによる操作が主流となっており、このようなコントローラーはPlayStationなどの家庭用ゲーム専用機と強く結び付けられた存在である