どうぶつ

 陰鬱な気分に飲み込まれると、途端に世界の輪郭が曖昧になっていく。このまま呼吸を続けるには酸素はあまりに重く苦々しい。本能の駆動する気管支によって仕方なく摂取して体内で二酸化炭素にコンバートして、嫌々吐き出していく。ああ、心臓と血液はO2 to CO2のエンコーダーなのだな。ぼくらはみんな「CO2吐き」と名乗れるんだ。そしてぼくらは自らを終わりへと緩やかに移し替えていく。生としての存在そのものがエンコーダーなので、安心して朽ちていける。

 Apple製のAACエンコーダーは優秀らしい。ぼくは優秀なコンバーターだろうか。ぼくよりももっと優れたCO2吐きがいるんじゃないかという疑念に付き纏われて、それでもあと一回だけ、もう一回だけと何度も何度も逃げるような呼吸を重ねる。罪悪感に苛まれながら。可聴域外の声で叫ぶ。無罪なんだよ。

 輪郭を失ったものたちに囲まれて今日もぼんやりと息を吹き返していこうね。